在宅でお仕事。
前編:「甘くはないぞ! 在宅ワーク」
 今、主婦があこがれる「在宅ワーク」。 女性向けのパソコン雑誌でも実体験などが載っているが、
その実状はマスコミがあおるほど輝かしくはなく、 覚悟のいるものなのだ。

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★思ったほど甘くはない在宅ワーク★
 データ入力を始めて8年、在宅ワーク一本でやっていこうと決意し独立して4年。テキスト打ちから始めた私が今こうしてデザインやイラスト、ライティングの仕事をやっているのも今までの積み重ねが実を結んだと自負している。だがそれだけに、「理想の職業・在宅ワーク」と必要以上に持ち上げるマスコミにもうんざりしてしまう。
 子供が小さいので外に働きに行けない、できれば家にいながらにしてできることを、という点では在宅ワークは適した仕事かもしれない。しかしそれは仕事とプライベートが上手に分けられた時に発揮される。
 夜9時過ぎ。仕事も家事も終え、やれやれと一息ついた頃にその電話はやってくる。
「朝イチ納品でお願いしたいんですが……」
 ――お得意さまからの仕事の打診はつかの間の休息をも打ち破る。得意先にもよると思うが、たいていは企業の下請け・孫請けになる。社内で処理できない分が発生すると、外注にデータ処理を任せるのだ。当然、時間的にも厳しいものがある。しかし今後を考えると断ることもできずに結局依頼を受け、量によっては徹夜することもある。いいかげんにしろよ、と言わんばかりのダンナの視線を背中に感じつつも、一度受けた仕事はきちんとこなさなければいけない。フリーになったばかりのころはそんな受注形態が続いていた。
 もちろんこれは私が受けた仕事の場合だし、発注する側ではもっと余裕をくれるところもある。だがそれはよっぽど条件が良いところの話で、ほとんどが時間的にギリギリで動いている。よく通信教育のワープロ講座などにある「日にA4文書5〜6ページを定期的に」などというありがたい会社は皆無だった。
 また、たいていのところは「外注」となり、会社に雇用されるわけではない。もちろん生活の保障をしてくれるわけでもなく、仕事がない暇な時間も発生してくる。平均して仕事をするわけでもないので、忙しい時は連日睡眠3時間なんてざらであり、1週間依頼が来ないほど暇な時もある。これは企業の夏休みや年度末などと連動しているので、わかっていればそれほどではないはずだが、収入が不安定であるが故に、必要以上に不安になってしまう。「これならパートで外に出た方が……」と思ったことは数え切れず、求人広告を読んでためいきをつくのも日常茶飯事だった。
 仕事をしていないと「もう依頼が来ないんじゃないだろうか」と不定愁訴が発生した時期もあった。この前の仕事で不備が発生していたのかもしれない、電話での受け答えが良くなかったのかもしれない……考えれば考えるほど、ネガティブな方向へ自分を追い込んでしまう。そう考えたくないから次から次へと仕事を受けてしまい、仕事ばかりしている毎日になる。今思えばなんて幼稚な、とも思えるのだが、その当時の精神状態を考えると笑えないものがある。
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★「下請け」の悲哀

 受注・雇用形態にもよると思うが、多くの在宅ワーカーは「個人事業主」に分類され、その所得は事業所得になる。そう、パート感覚で始めていざ税金関係で考えてみてから、自分はそういうことをやっていたのかと驚く人もいる。あくまでも個人で事業をしている……それを自覚しないと、支払いなどで思わぬ展開になったときにダメージが大きい。
 ある時、得意先から支払を伸ばしてくれ、と言われたことがあった。今月は発注件数が多く、資金運営から考えると期日までに支払ができないとの理由を並べられると、あまり強いことは言えなくなる。また、同じ理由で「昨今の不況で以前のように支払えない」といきなり20%カットなんてこともあった。今思えば、それまでにこなした仕事に対してカットされるなんてとんでもないことなのだが、私は優先的に仕事をもらっていた方だったので文句も言わずに引き下がっていた。「今後仕事がもらえなくなったらどうしよう」という不安がそうさせていたのだ。
 でもそんなことが頻繁に起こっても困るので、「大きな仕事をいただく際は、先に支払形態を確認させてください」と書面にしたためて提出したことがある。そうしなければ、仕事をしただけ損することになってしまうからだ。そんな不安を抱えて仕事をするよりも……と思ったのだが、あまり良くは思ってもらえなかったようだ。当時を思い起こしてみてもこの行動は間違っていなかったように思うが、やっぱり傍若無人だったのだろうか。仕事をもらうことは大変だとつくづく思った事例である。

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★「パートの花形」は虚像?

 パソコンを使った在宅ワークのほとんどがデータ処理の下請けであり、その単価は非常に安い。熟練して量をこなさないと「これならパートに出ていた方がいい」と思うほどなのだ。もちろん、グラフィックや図形処理、最近ではWeb系の仕事などは下請けであってももう少し単価が上なのだが、これら「技能を問われる」ものはある程度のスキルがなければ仕事は来ない。パソコンを買ったので在宅ワークを始めよう、というお手軽感覚でいると、現実に直面した時の絶望感は計り知れない。
 実際に、私がパソコンで在宅ワークをしていると知った人から相談を受けることもしばしばだ。話を聞いていると、「テレビでやっていたから、私にもできると思って」「今やっている仕事よりも時給がよさそうだから」と安易に考えている人が多い。しかし、先に述べたようにマスコミで在宅ワークを取りあげる場合は当然良い部分しか見せないし、ワープロなど通信教育の宣伝文句も「自宅で収入を」と成功例しか載せていない。あくまで「こういう仕事もある」「こういう勉強をすればこういうことができるようになる」というもので、「ただし、自分の努力次第」という一番重要な文言が抜けている。仕事を始めたから儲かる・勉強をしたから仕事がもらえると読む側が勘違いするほど、いいことづくめの宣伝文句ばかりなのだ。
 誤解を恐れずに書くと「そんなに甘いもんじゃない」。いいことばかりを書いている裏には同じ量だけ苦労があると思っていい。そればかりではなく、そんな甘さにつけ込んだ「悪意を持った」業者も急増している。主婦ばかりではなく、サイドワークに……と軽く考えている人も狙われるのである。それに関してはまたいつか機会があったら書き記したい。

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★成果が形に現れる在宅ワーク

 このような悪い面ばかりを書き連ねると、在宅ワークを否定していると思われかねない。でもやればやっただけ確実に報われる職業でもある。考え方・取り組み方によって変わるものだし、確実にスキルアップしていく部分もある。反面、仕事を受ける上での人間関係の難しさもあるし、勉強しなければいけないことも山のように出てくる。事実、私はまだまだ勉強が足りずに行き当たりばったりで仕事をこなすことも多い。一度受けた以上は確実にやり遂げなければならないので、半分泣きながら仕事をしたこともしばしばだった。しかし、それを乗り越えたとき……自分の能力を確実に形にできたとき、その達成感が嬉しくて、私はまだこの仕事をしている。
 だから「在宅ワークってどう?」と聞かれたら、まず「大変だよ」と答えることにしている。実状をつつみ隠さず話すことにしている。それでもやってみたいという人には情報の探し方・勉強の仕方のとりかかりを教えるようにしている。仕事を受注するのも売り込み方も自分でやろう!と思えるようにならなければ、この稼業は続けられない。結局は、自分次第の職種なのだ。

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