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Tea Time Romance
> 《4》
《4》
今起きたことを誰にも悟られないように……僕は横殴りの雨で頭を冷やし、胸の高鳴りを押さえるのに必死だった。
キッチンの入口にたどりつき傘を探すけれども、なかなか見つからない。
その気配に気付いたように、フロアにいたマスターが顔を出す。
「バケツをひっくり返したみたいだな、外を片付けるのは雨がやんでから
でいいぞ」
タオルを投げてよこして、マスターが言った。
「いえ……傘を持っていかないと」
「傘……? ああ、そうか」
ずぶ濡れの僕を見、マスターの瞳がにんまりと笑う。
「口紅、ついているぞ」
その言葉に、僕は慌てて唇を拭った。やれやれ、といった表情のマスター。
「馬鹿……シャツにだよ」
とたん、体中が熱くなり、僕は傘を掴んでキッチンを出た。
急いで物置へと戻った筈なのに、もう彼女の姿はなかった。ただ、白い帽子のみが床で主人の手に戻るのを待っていた。
帽子を拾い上げ、微かに残る彼女の香りを感じて、ついさっきの事を思い出す。
夢の中の出来事……いや、確かに現実だ。その事実が僕の手の中にある。
そっと唇に触れ、しばらく僕は物置の中で立ち尽くしていた。
「早いもんだな、一月経つのなんて」
マスターがグラスを拭きながら呟く。
僕はもう荷造りを終え、最後にコーヒーを一杯おごってもらっている。
「就職してからでも遊びに来てくれよな。
どうも君は他人のような気がしない。
女の扱いが不器用なところが俺と似ているからかな」
まだ未練があるのを見透かされたような気になって、頬が熱くなるのを感じる。そんな僕の気持ちを知ってか、マスターは昨日の出来事をあれ以上追求することはしなかった。
時計の針が三時近くになり、僕は持っていた彼女の帽子をカウンターに置いた。
「なんだ、もう行くのか? 直接渡してやればいいのに」
「……駄目ですよ、彼女に会ったら……」
「そうだな、縁談がぶち壊しになって、変な噂が立ったら大変だ」
思わずマスターの顔を見る。笑い転げるマスター。
「大丈夫だよ、俺は口が堅い方だ。
……恋愛は誰にも止められないしな」
そう言われて安堵感を覚え、僕は席を立ち、荷物を抱えた。
「もう九月……夏も終わりだな」
マスターの言葉が示すように、日差しも海を渡る風も、すでに秋の気配を漂わせていた。
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