> イメージストーリー 〜「Back Street」より〜
イメージストーリー 〜「Back Street」より〜
 街並みのけばけばしいネオンが眠り始める頃、夜空が白んでくる。気付けば間もなく夜が明ける、あてどなく僕は通りを独りさまよっている。


 時間が時間ならばこの街は人で溢れる。若い歓声、絶えることなく流れる音楽、脂粉とアルコールが入り混じり、噎(む)せるほどの淫靡な香り。
 それぞれが皆、強烈に自己主張をする。やや暴力的にとれるけれど....それがこの街を形作っている。


 しかし、人々が家路に向かい、この街も束の間の休息を迎える。あれほど騒いでいた街頭のスピーカーもスイッチを落とされ、静まり返る。
 終電を逃した恋人達が地下道の入り口で仲良く座り、愛を語らう声がくぐもって聞こえるだけ。にぎわう頃とは裏腹に....また別の世界に入り込んだような気さえする。


 こんな二重人格の街に....僕は何を求めているんだろうか?


 路地裏を覗けば、近辺の店のゴミが無造作に投げ出され、小山を築く。いや、無造作に見えてもこの界隈のルールに則って置いてあるのかもしれない。
 その小山に一匹の野良犬が鼻をつけ、匂いを嗅いでいる。痩せて妙に胸の骨だけが目立つ犬。ふとその犬と目が合ったけれども、彼はプイと横を向いた。その瞳は目前の残飯には向かず、何処か遠い空間を見ているかのような....この世の全てを拒絶している世捨て人のような光を見せた。


 やがて、近くの公園をねぐらにしているカラスが起き出し、鳴き始める。遠くにその声が響くと、野良犬はあわてて残飯を漁った。貪欲なカラス達に横取りされる前に獲物のゴミ袋を口にくわえ、彼は路地の奥へと消えた。
 その痩せ細った姿は哀れにも見えるけれど....彼はこの街を住処にして懸命に生きている。やけにその後ろ姿が自由に感じられ、うらやましくも思い....何故かこの街に、この路地裏に安らぎを覚える。


 そして、僕もまた独りなのだと思い知らされる。


 吐く息も凍り、冷え込みが一段と増す頃....陽が昇り始める。時もわからぬほど、この街を歩き続ける。騒がしい頃には気付かないでいた、この街の「何か」を僕は見つけられたような気がする。
 言葉では表せない「何か」。それは「自由」かもしれない。


 始発電車が動き出す時間なのだろう、どこからともなく似たような境遇の者達が通りへと出てくる。そして、夢うつつの表情(かお)で、駅へ歩き始める。やがて始まる通勤ラッシュの時間帯まで、この街は眠り続けるのだろう。
 仄かに青く、白い街。しばし、この路地裏にとどまっていようと思う。その寝顔をもう少し見ていたいから....。
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